カスタマージャーニーを設計する上で重要な4つの要素
水上 浩一です。
マーケティングの基本は「設計」にあると思います。
設計とは簡単に言うと「未来の予測」だと言えます。ユーザーに自社の商品を知ってもらい、興味をもってもらい、比較・検討を経て、購買(行動)してもらい、さらにリピート利用してもらう。これはすべて未来の予測となります。
設計は具体的に可視化する必要があり、それが設計図となります。
設計図には大まかに「枠組み」「プロセス(工程)」「完成形」といった要素があります。マーケティングにおける設計のことを「カスタマージャーニー」と呼ぶ場合があります。
■カスタマージャーニー
カスタマージャーニーの定義は「新規ユーザーがどのような経路で購入に至るか?」というマーケティングの設計を行うことであり、可視化したものをカスタマージャーニーマップと呼びます。
カスタマージャーニー設計における「枠組み」の基礎部分は「ターゲット」の明確化であり、「ペルソナ」と呼ばれています。
しかし、昨今、特にWebマーケティングにおいて、スマホの普及によりユーザーがいつでも、どこでもインターネットに接続できる環境にあるため、「特定のユーザー像」を設計しても当てはまらない場合が出てきました。
そこで特定のユーザー像を細分化・多様化させる必要性が出てきたのです。
たとえばスターバックスコーヒーを利用するユーザーを考えたとき、40代のビジネスマンを想定すれば、テンションの高い仕事の時間にホッと一息つく20~30分を提供する、いわゆる「サードプレイス」がコーヒーショップのベネフィットになると思います。しかし、コーヒーショップには40代のビジネスマンだけが来店する訳ではありません。高校生も来店するでしょうし、シニア層も来店します。
高校生やシニア層は「ホッと一息つく20~30分」を求めて来店するのでしょうか?
試験勉強中の高校生でしたら気分を変えて勉強したいと思い来店しているかもしれません。またシニア層でしたら、お馴染みの店員さんと二言三言交わす会話を楽しみに来店しているかもしれません。そして高校生やシニア層はターゲットとしてもビジネス的に十分なインパクトを持っているのです。
「イノベーションのジレンマ」の著者、クレイトン・M・クリステンセンの著書に『「ジョブ理論」 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』がありますが、同書に世界最大級の宿泊予約サイト「 Airbnb(エアビーアンドビー)」の事例が掲載されていました。
顧客がなし遂げようともがいていることは何か、それがいまうまく機能していないのはなぜなのか? 何か新しい解決策がほしいと彼らに思わせているのは何か? こうした答えを探すためのシンプルな方法のひとつは、ストーリーボードを使うことだ。(中略)
会社を立ち上げるまえ、エアビーアンドビーのホストとゲストのさまざまな感情の動きを45種類もストーリーボードに描いたという。ホストは男性か女性か、若者か年輩者か、居住地はどこか、都会か田園地帯か、ホストを始める理由は何か、不安を感じているか──ゲストが来なかったら? ゲストの荷物が多かったら? ゲストはどんな印象をもつだろうか、疲れているだろうか?・・・
つまり、カスタマージャーニーを設計する上で重要なことは、様々なユーザーの個別の背景、つまりストーリーを推測した上でベネフィットを提供することと言えそうです。
<ユーザーイメージの設定とカスタマージャーニー設計フレームワーク>
- 自店舗の商品を利用しようとするユーザーをいくつかのイメージに分けて設定する
(ユーザーイメージの設定) - それぞれのユーザーイメージの背景(ストーリー)を推測する
- それぞれのユーザーイメージのベネフィットを明確にする
- ユーザーイメージごとの設計図を作る
「認知」「興味・関心」「比較・検討」「行動」「共有」「リピート」「ファン」
のような予測されるユーザーの行動を設計しておくことが重要
というプロセスなのだと思います。それぞれのフェーズでの設計について説明します。
■「認知」「興味・関心」「比較・検討」「行動」フェーズの設計
たとえば「電動ドリル」を購入したい、と思っているユーザーを想定します。
よくマーケティングの教科書で取り上げられる「ユーザーはドリルが欲しいのではない。木材に穴を開けたいのだ。」というアレです。ここでは木材に開いた穴がベネフィットである、と説明されます。しかし本当にそうでしょうか?
このユーザーが30代半ばの男性だったとします。
このユーザーの電動ドリルの購買動機は本当に木材に穴を開けたいから、なのでしょうか?ではなぜこのユーザーは、木材に穴を開けたかったのでしょうか?
子供に座らせる椅子を作りたかったから、という背景が見えてきたとします。
ではなぜこのユーザーは子供に椅子を作りたかったのでしょうか?
すると「食事中に落ち着かないのでかわいい椅子があればよろこんで座ってくれるかも」というもう一つの背景が浮かび上がってきます。
さらに「自分の作った椅子に座った子供の写真を撮ったら、かわいいだろうなあ、しかもその写真は一生の思い出になるかもしれない。そしてその椅子は一生の宝物になるかもしれない」というストーリーが浮かび上がってきたとします。
この段階ですでにこのユーザーが欲しいのは電動ドリルでは無いことがわかります。
このユーザーに「電動ドリル」で広告を出すべきでしょうか?(「認知」フェーズ)
それよりも「子供用椅子の作り方」というコンテンツを伝えた方が有効ではないか?という意見が出てきそうです。
「子供用椅子の作り方」というコンテンツを伝えることで「そうそう!それが知りたかったんだ!」とユーザーは喜んで情報収集をすることと思います。
そしてそれを見越してこのネットショップでは「子供用木製椅子キット」を販売していたとします。そうなりますとこのユーザーは「比較・検討」することなしに、このコンテンツのあるネットショップで「子供用木製椅子キット」を購入することでしょう。
このストーリーを知らずに「電動ドリル」を販売しようとした場合、当然型番や商品名でリスティング広告を出稿することになります。そうすると同業他店との価格競争に巻き込まれることが予測されます。
このように、現場の声を聞きながらユーザーイメージを明確にして背景を予測してストーリーを明確にすることで真のベネフィットを提案することができるのです。
この設計図には「価格競争」の文字は存在しません。
■「共有」フェーズ
この「子供用木製椅子キット」という商品はもう一つ店舗にとって魅力的な要素があります。作り上げたユーザーは当然子供を座らせる訳ですが、座らせるのと同様に、いやそれ以上に「写真を撮る」という強烈なベネフィットが存在します。
ではその写真はどうするのでしょうか?
(個人情報の問題を重視する親の場合は顔をわからないようにして)ソーシャルメディアにアップすることと思います。30代の場合ですとやはりInstagramでしょうか?
母親がアップするかもしれません。
このような写真が数多くソーシャルメディアに投稿されたとしたら、それは相当な広告効果を生み出すことでしょう。
「共有」フェーズではこの「フォトジェニック」(写真映りが良く被写体として最適であること、インスタ映え、SNS映えすること)であることが商品として重要になってきています。飲食店のメニューも同様です。マクドナルドでは、Twitter等で新商品の告知を行うと同時にチキンタツタ、チキンタルタのパッケージをリニューアルして思わず写真に撮りたくなるように設計しているようです。
観光地でも「インスタ映え」を意識して、フォトスポットにインスタ用のフォトフレームを用意してあるところも多いようです。
■「リピート」「ファン」フェーズ
「子供用木製椅子キット」を買ったユーザーはその後どのような行動をとるでしょうか?また店舗としてはとってもらいたいでしょうか?
もちろん、再度店舗を利用してもらいたいと思うでしょう。
まず一つの考え方としては「シリーズ化」というのがあります。
「子供用木製椅子キット」を購入したユーザーに「今度はその椅子にピッタリな机を作ってみませんか?」というメールを送付します。
するとユーザーである父親は子供に「その椅子に合った机も欲しいか?」と聞くと思います。当然子供は椅子が楽しい訳ですから「うん!」とにっこり答えます。
これで「子供用机キット」の販売は確定ですね。
その後、男の子だったら「子供用自動車キット」女の子だったら「おままごとキット」、両方に受けるものとしては「お店屋さんキット」などがあると楽しいと思います。
これはコレクション性も高いので集めれば集めるだけより楽しくなっていきます。
さらにそこに購入ごとに「ポイント」が付いたり机と椅子を完成させて写真を送ったら「机、椅子完成認定証」を送付するのも効果的だと思います。
こういったポイントやバッジを送付したり認定証のように成長、進化の証を送付するような仕組みを「ゲーミフィケーション」と言います。
ゲーミフィケーションとは課題の解決や顧客ロイヤリティの向上に、ゲームの技術やメカニズムを利用するマーケティング手法のことを言います。たとえば、ポイントやスコアやアイテムの獲得で利用者同士の競争意識を高めたり、利用者の継続利用に対する動機付け等に活用されています。
ゲーミフィケーションの事例として、エーピーカンパニーが運営する地鶏居酒屋「塚田農場」では、初回入店すると平社員の名刺を配布されます。最初の役職は「主任」そして2回来店すると「課長」その後「社長」「会長」と昇進していきます。「ファン」は昇進したくてなんどもお店に通います。しかも一定期間来店が途絶えてしまうと平社員に戻ってしまうので、それが嫌なユーザーは定期的に来店することになります。
最近では名刺を紛失する、という機会損失に対応して「アプリ」が登場したそうです。
椅子や机、お店がそろってくると、当然子供のお友達を呼ぶことになります。
すると「わたしもこれ買って~」となり、「シェア」「リピート」そして「ファン」の創出に成功することになります。
しかもこういった企画商材は価格競争になりにくいのです。
今回はアイディアベースでのお話でしたが、実際に「キット販売」で成果を上げているネットショップはたくさんいらっしゃいますので、あながちフィクションでもありません。是非、あなたのお店を「カスタマージャーニー」設計で価格競争の無い、ファンが集い笑顔あふれる場所にしてください!
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